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仙台高等裁判所 昭和30年(う)408号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

検察官岸川敬喜の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の宮古区檢察庁検察官事務取扱検事樋口直吉名義の控訴趣意書の記載と同じであり、弁護人渡辺大司のこれに対する答弁は同じく同弁護人名義の答弁書の記載と同じであるから、これを引用する。

控訴趣意第二について。

森林法中窃盗罪に関する規定、物罪に関する規定は、刑法の窃盗罪に関する規定、物罪に関する規定に対し、一般法に対する特別法の関係に立つものであるが、森林窃盗罪も森林物罪もその本質においては窃盗罪であり物罪であるから、森林法の窃盗罪に関する規定、物罪に関する規定と牴触又は重複しない範囲においてはなおそれぞれ刑法の窃盗罪に関する規定、物罪に関する規定の適用があるものと解するのが相当である。そして、親族相盗例に関する刑法第二百四十四条の規定及び親族間の物罪に関する刑法第二百五十七条の規定は、親族容隠の思想ないし親族内部の非行に対する国権の干渉を避けんとする思想に由来するものであるが、この思想を森林法が特に排除したものとは考えられない。けだし、森林法の立法目的は森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項及び森林所有者の協同組織の制度を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資するにあり、所論の如く公共の福祉を主眼としているとしても、その主たる狙いは森林経営の積極的方面にあつて、森林窃盗罪同物罪の規定は森林経営に対する消極的方面における一手段に過ぎず、しかも森林法が特に窃盗罪、物罪の規定を設けたのは森林やその産物が一般の財物と異つている点が少くなく、場所的にも特異である点等から、刑法の一般規定によるのを妥当としないとしたためであるとみられ、その公共性の故に親族容隠の思想を特に排除せねばならぬほどの必要があるものとは考えられないし、また森林窃盗罪、森林物罪は刑法の窃盗罪、物罪に比しその法定刑が遥かに軽いことからみても、親族容隠の思想を特に排除することは不合理だからである。そして、森林法には親族相盗例ないし親族間の物罪に関する規定は何等存しないのである。されば、刑法第二百四十四条、第二百五十七条の規定は森林法の窃盗罪に関する規定第百九十七条第百九十八条、物罪に関する規定第二百一条第百九十九条に何等牴触し又は重複するものでないから、それぞれ森林窃盗罪、森林物罪に適用あるものと解すべきである。森林法の窃盗罪、物罪に関する規定は刑法の窃盗罪、物罪に関する規定の特別法であつて、刑法総則の規定は適用されても、特別法には類推解釈は許されないから、刑法第二編の各罰条は森林法に準用規定のない以上適用されないとの所論は、畢竟、独自の見解であつて賛同できない。原判決も、結局、右と同趣旨の下に、刑法第二百五十七条に則り被告人に対し刑の免除をしたものであつて、その間所論のような法律の解釈適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

同第一について。≪省略≫

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 細野幸雄 有路不二男)

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